高村山荘(H16・5・29)
高村光太郎
雪白く積めり
雪白く積めり。
妻・智恵子への愛に生きた詩人・彫刻家
雪林間の路をうづめて平らかなり。
ふめば膝を没して更にふかく
ふめば膝を没して更にふかく
その雪うすら日をあびて燐光を發す。
燐光あをくひかりて不知火に似たり。
路を横ぎりて兎の足あと點々とつづき
松林の奥ほのかにけぶる。
十歩にして息をやすめ
二十歩にして雪中に座す。
風ふきに雪粛々と鳴って梢を渡り
萬境人をして詩を吐かしむ。
早池峰はすでに雲際に結晶すれども
わが詩の稜角いまだ成らざるを奈何にせん。
わづかに杉の枯葉をひろひて
今夕の爐邊に一椀の雑炊を煖めんとす。
敗れたるもの卻て心平らかにして
燐光の如きもの霊魂にきらめきて美しきなり
美しくしてとらへ難きなり。