高村山荘(H16・5・29)
高村光太郎
「あどけないはなし」
智惠子は東京に空が無いといふ、
妻・智恵子への愛に生きた詩人・彫刻家
ほんとの空が見たいといふ。
私は驚いて空を見る。
桜若葉の間に在るのは、
切っても切れない
むかしなじみのきれいな空だ。
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ。
智惠子は遠くを見ながら言ふ、
阿多多羅山の山の上に
毎日出てゐる青い空が
智惠子のほんとの空だといふ。
あどけない空の話である。